“汚い”ところから社会を観る―『せかいのおきく』阪本順治監督コメント

気候変動による災害、戦争を終わらせられない指導者たち、真っ先に死んでゆくのは、なんら世界経済の恩恵を受けないひとたち。消費されるのは、モノだけではなく、社会の底辺でうごめくひとびとの人格。これまで、その底辺から世の中を見据え、低い地平から社会を描こうとした映画は多々あったが、今回、私はさらに視線を下げ、違った方角から社会を観てみようと想った。云い方を替えると、“汚い”ところから社会を観る、そんな試みだ。はるか以前の日本における食のサイクルを基軸として、没落した武家の娘と、糞尿の処理に携わる賤民たちを主人公に、その青春を、軽妙に描きたいと想った。その軽妙さこそが、庶民のたくましさであり、本音でもあり、自尊心を誰にも奪われてなるまいとする彼らの抵抗だ。そして、現代社会への痛烈な皮肉だ。『YOIHI PROJECT』で『せかいのおきく』を作ったことは、私自身への自戒ともいえる。

阪本順治(映画監督)

1989年、赤井英和主演『どついたるねん』で監督デビューし、日本映画監督協会新人賞など多くの映画賞を受賞。藤山直美主演『顔』(00)では日本アカデミー賞最優秀監督賞、キネマ旬報日本映画ベスト・テン1位など、主要な映画賞を総なめにした。以降も幅広いジャンルで活躍。主な作品は、『KT』(02)、『亡国のイージス 』(05)、『闇の子供たち』(08)、『座頭市THE LAST』(10)、『大鹿村騒動 記』(11)、『北のカナリアたち』(12)、『団地』(16)、『エルネスト』(17)、『半世界』(19)、『一度も撃ってません』(20)、『冬薔薇』(22)などがある。

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